海の見えるホテル 前編

昔から、人生に疲れた際に「瀬戸内海の島でオリーブ農家を営む」といった内容の空想をよくする。けれども、自分は1度たりとも瀬戸内海の島々に上陸したことが無かった。

だからと言うわけではないが、今回の彼女との旅行は岡山県を経由し島々へ向かう事にしたのだった。

 

午前11:40 

岡山駅で彼女と合流し、アーケード街にある中華料理店へ向かった。どうやらその店は老夫婦が営んでいるようで、なかなか評判が良いらしい。小綺麗と言うよりかは、昔ながらの佇まいをしていた。僕らはすっかり「中華の口」になっていた。つまり、脳内でラーメンや餃子や冷えた瓶ビールが完璧に再現されていた。しかし、店が定休日らしく僕らは別のラーメン屋へ向かった。その店もまた人気店で40分程度列に並んだ。もしかすると、食事をする為に列に並ぶのは初めてだったかも知れない。やっとのことで小綺麗な店内に入ると、50代前半くらいの店主が一人で全てを捌いていた。その店主の動きが妙に機械的であった、調理の手順から挨拶まで。彼は日本初のラーメンマシンなのかも知れない。ラーメンはまずまず美味しかったと思う。彼女は「愛想って大事ね」と呟いていた。

 

その後、岡山駅から宇野港へ電車で向かった。毎度の事だが彼女は移動中の殆どを睡眠に費やしていた。宇野港に到着すると、石で作られた亀やアザラシやらのオブジェが僕らを出迎えた。辺りは静かで海の香りがした。

15分程海の方面へ向かって歩いていると、今回宿泊する建物に着いた。その建物は廃墟をリノベーションしたシンプルで趣味の良い内装をしたホテルであった。荷物を整理し暫く休憩した後、海をぼんやりと眺めながら散歩をしたり、地元の人々しか居ないであろうスーパーに寄ったりした。

 

夕食は彼女が予約をしてくれた焼き鳥屋へと行った。その後、ホテルの屋上にあるビアガーデンでドリンクとフライドポテトをテイクアウトし、海沿いのコンクリートに腰掛けた。夜の海の水面にはオレンジの光が揺れていた。ビアガーデンで流れている音楽が微かに波の音と混じっていた。ポテトでサワークリームをたぐりながら二人で他愛もない会話をぽつぽつとした。全てが非日常的だった。

薄暗い中遠くに見える島々、波の音、そして隣に座る彼女が。