繰り返す

 

コンクリートが剥き出した殺風景な風呂場には申し訳程度の小さな鏡がある。その鏡は身体の一部を写し込むことで精一杯なサイズだ。ふと、鏡に写った自分の身体の一部と目が合う、こんなに痩せていたかなと思った。

 

 

昨夜飲んだバドワイザーの缶を寝室から撤去し、清潔な服に着替えた。

今日散髪をされに行くためだ。

散髪はしにいくものでは無いからね、

 

 

 

久々に靴箱から出した本皮のローファーは埃被っていた。外に出てから気がついたので、ポストに溜まっているチラシの一枚を適当に引っ張り出し、靴をさっと磨いた。

余りにもひどい磨き方だとは自覚しているが

これが意外と綺麗に磨けた。本来であれば革靴専用の豚の毛のブラシで汚れを払い、汚れを落とす液で全体を拭き、光沢を出すクリームを最低三層は塗り込める。だが、そんな過程を経なくとも表面上の汚れは払える、一時的に。そして、また直ぐに汚れる。多分何事もそれの繰り返しに過ぎない。

 

 

美容室、髪を切られている間自分はずっと小説を読んでいた。単純にその小説が気になると言う理由もあるし、美容師との会話は溶けかけたアイスの表面だけを掬う時の感覚と似ていて苦手だ。30分ほどかけて自分の髪は1ヶ月前にそっくりそのまま戻った。まるで寸分の狂いも無い様であった。

伸びればまた場しのぎ的に散髪をされる、その繰り返しだ。

 

 

美容室のある雑居ビルから出るとプールを上がった時の香りがした。そして湿度も正しくそれであった。

 

 

 

22回目の初夏だった。